2015年6月8日月曜日

安全保障関係の授業

 アメリカの住民は、概してフレンドリー。どこか旅先で、全然知らない人と何だか話が弾み、Do you study in Boston? と聞かれることも少なくない。そこで、そうそう、international relationsの大学院に通っているんだ、と答えると、一瞬の間と曖昧な笑顔のあとに、「つまり何をしているの?」と話が進むことも多い。International relationsとは、何とも曖昧な単語である。

 フレッチャーのMALDにおいて学べる分野はとても幅広い。紛争解決、開発、ビジネス、エネルギー、気候変動、等々。他の分野を勉強している学生の話の内容は正直全くわからない(だから面白いんだけど)。そんなバラエティに富んだ学生グループの中で、一定の存在感を示しているのが安全保障(International Security Studies)を学んでいる学生だと思う。

 米国を始めとする各国軍隊から派遣されてきている学生、安全保障系のシンクタンクを志す学生等、動機やバックグラウンドはここでも様々。学問分野として興味を引きやすいこともあるのか、ビジネスや紛争解決等をメイン専攻としながらも、安全保障関連講義を受講している友人もいる。安全保障というと、何だか閉じられたコミュニティを想像しがちかもしれないが、フレッチャーでは決してそんなことはない。ここでも、フレッチャーのよさの一つである多様性を存分に感じることができる。

 フレッチャーの安全保障関係の授業は質・量ともに一流だと言われている。今回は、そんな安全保障関連の授業の中で、私が受講した2つについて紹介したい。

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★The Role of Force in International Politics (P240): 2014秋学期★
 ・教授:シュルツ(Richard Shultz)教授。
 ・講義形式@フレッチャー最大の教室(講堂?)ASEAN。
 International Security Studiesの必修授業だが、「必修だから仕方なしにとる」というような質の授業では決してない。フレッチャーにおいて安全保障を学ぶ基礎を実際に身につけることができる中身のある授業だからこそ、講堂を教室に使うほどの人気を誇っているのだろう。アメリカ人の受講学生が多い印象。

 約2時間×週2回という比較的長丁場の授業ではあるが、一学期間のみということもあり、講義においては1トピックを深く掘り下げるというより、幅広く基礎を丁寧におさえる方に重点がおかれていたように思う。扱った分野をざっとまとめてみても、①国際関係の理論(リアリズム、リベラリズム、安全保障のジレンマ等)、②近代戦争の発展史(ナポレオン戦争からイラク戦争まで。特に米国の経験した戦争には重きが置かれている)、③戦争倫理、④Peace Operations(国連の平和維持活動から、西洋諸国による『人道的介入』まで)、⑤テロリズム、⑥武力の果たす役割に関する理論(抑止力とは何か?等)、⑦戦略論(クラウゼヴィッツ等)、⑧非暴力主義……等々。これでもまだ全てを網羅しているわけではない。

 これだけの範囲になるので、リーディングも膨大。膨大なリーディングを分担し、試験に備えて協力するために、7〜8名のスタディグループが義務的に編成されることになっているが、各スタディグループが実際にやっていることはグループによって様々。私が所属していたスタディグループは、リーディング分担(各人が担当文献を読んで、要約を共有する)に加えて、期末試験前には過去問を元に重要と思われる箇所の復習を一緒にしたりしていた。授業そのものに向けては特に準備が必要なわけでもないが、このようにアクティブなスタディグループのための準備や、期末試験直前に必要な勉強量の多さを考えると、負担が軽いとは決して言えない授業。

 そう、この科目の成績評価は期末試験(インクラス・クローズドノート)が100%である。60ページに及んだワードのノートを読み返しながら、試験直前は何度も絶望的な気分に陥ったことを思い出す。でも、そうやってスタディグループを通して議論を深め、試験前の暗記を通して知識を定着させたことで、安全保障に関する下地が確かに身に付いたことを今になって実感できているので、大変ながらも教授やグループメイトについていってよかったなと思う。ちなみにシュルツ教授、サバティカル休暇を取りたがっているという噂があるけど、シュルツ教授じゃないRole of Forceなんて私には考えられない……

★The Strategic Dimensions of China's Rise (P273): 2015春学期★
 ・教授:ヨシハラ(Toshi Yoshihara)教授。
 ・講義形式。
 上記のRole of Forceで見かけた顔をたくさん見かけることになったこの授業、「軍事戦略とは何か」「中国の軍事戦略は何か、そしてその最終目標は何なのか」ということを追究していく授業である。安全保障学と地域研究が見事に融合した授業で、日本人で安全保障を勉強したい人にはぴったりなんじゃないだろうか。教授は、米国海軍大学校(US Naval War Academy)でも教鞭をとっており、その道の一流学者。木曜の午後5時からという余り好ましくない時間帯なのにそこそこ大きめの教室が満員となる人気ぶりで、「セミナー」と銘打たれつつも実質レクチャースタイルで行われている。International Security StudiesやPacific Asiaの履修要件を満たすために使える。

 授業の予習として割り当てられるリーディングの量はそこそこ多いけど、Role of Forceと同様に講義形式な上、スタディグループも組まれないので、恐らく手を抜こうと思えばいくらでも手を抜ける。極端な例を挙げると、最初の数回と最終回以外授業に現れない友達もいたし、教授もそれを認識しているようだった。ただ、安全保障、とりわけ中国を取り巻く情勢に興味があるのであれば、勉強してもしすぎることはないというほど中身の詰まった授業だと思う。そして、教授の軽妙な語り口と愉快なスライドのおかげで、2時間ノンストップの講義(途中でQ&Aセッションが挟まれる)ですら全く飽きることはない。

 成績評価は中間試験orブックレビュー(今年はブックレビューだった)+期末試験。ブックレビューとは、中国の戦略について分析した書籍を1冊読破し、それについて「レビュー」を書くというもの。「ブックレビューなんて中学生ぶりだわ」とか言っているアメリカ人の友人たちとは違い、果たして「レビュー」とは何なのかとひとしきり悩んだが、つまり、論理的な感想文だった。期末試験はテイクホームで、1週間の期限が与えられる。レビューも期末も当然ながらオープンブック形式なので、歯が立たないほど難しいということはまずなかったと思う。むしろ、特に期末試験は、1学期間かけて学んだことをしっかり咀嚼し、自分の考えを再構築する助けになった。「中国が何をしたいのか」ということに明快な答えを与えることは難しい、と教授が初回の授業で言っていたけど、この授業を通してその問に対する自分なりの意見は見つけることができたかな、と思う。
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 授業以外にも、たくさんのMilitary Fellows(米軍関係者で、仲良くなれば米軍の実務的な部分をきっとたくさん教えてくれる)や、毎年恒例のSIMULEX(国際的な安全保障における緊急事態のロールプレイングシミュレーション。昨年は、ロシアがウクライナに更に侵攻した場合の対応について2日間に亘りシミュレーションした)、毎週のように行われる面白い講演など、様々な観点から安全保障に関する知見を深めさせてくれるイベントが盛りだくさんである。この短い(短くしようと努力はした)ブログではとても説明しきれないので、ぜひ実際に体感してほしい。

 更に興味がある人は下記サイトも参照して下さい。

http://fletcher.tufts.edu/ISSP
http://www.fletcher.tufts.edu/Academic/Courses/Fields-of-Study/International-Security-Studies





いつも勉強に使っていた図書館のお気に入りの場所。試験が終わった後はがらがらになって寂しい…。来年も使います!


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